過労死等(脳・心臓疾患と精神障害)の事案の分析
過労死等防止調査研究センター(以下「当センター」という。)では、過労死等として労災認定された事案の医学的な調査研究を行っています。「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする死亡やこれらの疾患のことです。
当センターでは、厚生労働省労災疾病臨床研究事業費補助金により平成27年度から「過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究」を開始し、過労死等の実態把握、その発生メカニズムの解明及び効果的な防止対策などについて調査研究を進めています。
これらの調査研究の成果については、毎年、厚生労働省から発行される「過労死等防止対策白書」のデータとして活用されています。以下に令和5年版の「過労死等防止対策白書」に掲載された、主な脳・心臓疾患と精神障害・自殺の分析結果を示します。
(以下、過労死等防止対策白書より)
労災支給決定(認定)事案の分析
平成27年度から、過労死等の労災支給決定(認定)された事案(平成22年1月以降)の労災復命書等の調査資料を全国の労働局・労働基準監督署より収集し、データベースを作成しています。令和4年度は、平成22年度から令和2年度までの11年間分の労災支給決定(認定)事案(脳・心臓疾患事案 2,928 件、精神障害事案 5,099 件)のデータベースを作成し、分析を行いました。
ア 脳・心臓疾患事案
労災支給決定された脳・心臓疾患事案 2,928 件(平成22年度から令和2年度までの11年間)のうち、男性が 2,791 件(95.3%)、女性が 137 件(4.7%)でした。発症時年齢は、50 歳代が
1,088 件(37.2%)で最も多く、次いで 40 歳代が 976 件(33.3%)でした。決定時疾患名は、「脳血管疾患」が 1,797 件(61.4%)、「虚血性心疾患等」が 1,131
件(38.6%)でした。
また、死亡事案は 1,141 件(39.0%)であり、うち、男性が 1,110 件(97.3%)、女性が 31 件(2.7%)、死亡時年齢は、40 歳代が 406
件(35.6%)で最も多く、次いで 50 歳代が 396 件(34.7%)でした(第3-1-1-1 図)。

業種別にみると、「運輸業,郵便業」が 973 件(33.2%)で最も多く、次いで「卸売業,小売業」が 416 件(14.2%)、「製造業」が 351 件(12.0%)、「建設業」が 273 件(9.3%)、「宿泊業,飲食サービス業」が 251 件(8.6%)でした(第 3-1-1-2 図)。

労働時間以外の負荷要因をみると、「拘束時間の長い勤務」が 844 件(28.8%)で最も多く、次いで「交替勤務・深夜勤務」が 404 件(13.8%)、「不規則な勤務」が 376 件(12.8%)でした(第3-1-1-3 図の左)。発症前の時間外労働時間数をみると、「発症前1か月」が 98.9 時間、「発症前2か月」が 95.6 時間、「発症前3か月」が 92.5 時間などでした(第3-1-1-3 図の右)。

イ 精神障害事案
労災支給決定(認定)された精神障害事案 5,099 件(平成22年度から令和2年度までの11年間)のうち、男性が 3,394 件(66.6%)、女性が 1,705 件(33.4%)でした。発症時年齢は、40
歳代が 1,485 件(29.1%)で最も多く、次いで 30 歳代が 1,473 件(28.9%)、29 歳以下が 1,134 件(22.2%)でした。
自殺事案(未遂を含む)は 906
件(17.8%)であり、うち、男性が 864 件(95.4%)、女性が 42 件(4.6%)でした。自殺事案(未遂を除く)の死亡時年齢は、40 歳代が 272 件(31.3%)で最も多く、次いで 30 歳代が
213 件(24.5%)、50 歳代が 173 件(19.9%)でした(第 3-1-1-5 図)。

業種別にみると、「製造業」が 882 件(17.3%)で最も多く、次いで「医療,福祉」が 751 件(14.7%)、「卸売業,小売業」が 681 件(13.4%)、「運輸業,郵便業」が 548 件(10.7%)、「建設業」が 418 件(8.2%)でした(第 3-1-1-6 図)。

男女別に、特別な出来事及び具体的出来事の上位項目をみると、特別な出来事では、男性は「極度の長時間労働」が 309 件(10.3%)で多く、女性は「心理的負荷が極度のもの」が 157
件(10.4%)で多かったです(第 3-1-1-7 図)。
具体的出来事では、男性は、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が 735
件(24.5%)、「2週間以上にわたって連続勤務を行った」が 505 件(16.9%)、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が 467 件(15.6%)の順に多かったです(第 3-1-1-7
図の上)。
女性は、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」が 330 件(21.8%)、「セクシュアルハラスメントを受けた」が 321 件(21.2%)、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が
250 件(16.5%)の順に多かったです(第 3-1-1-7 図の下)。
